ナント見聞録 その2

5月21日
朝早くからボナンさんに連れられ、AS (Actualite de la scenographie )という会社を経営するMichel Gladyrewsky氏のオフィスへお邪魔する。ASは舞台技術の専門誌でフランスの90パーセントの劇場施設が定期購読するほどの普及率。また舞台技術者間の情報ネットワーク確立や技術向上にも大貢献しているようだ。6月には舞台技術の大展示会をパリのビレットで開催予定。特に最近の仕事としては、都市計画の中で、個々の歴史的建造物やシンボル的建築物にどのような一貫性あるライティングを施すか、その先駆け的事例を集めたカタログを出版したり、フェスティバルや劇場のチケッティング・システムに関する一大ノウハウ本を出版したりと、誰も目をつけていなかったスペクタクル周辺分野の専門書を数多く出版している。極めて有益な情報満載。
それからLe Lieu Unique に戻り、ディレクターであるJean Blaise 氏御自らにLieu Unique を案内して頂く。
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メインホールであるところは、可動式の客席500席を備え、様々な形態の客席作りに対応。天井や壁にはアフリカのマリの布や木材を素材として使用しているが、もともとすべて廃材だそうだ。この洗練されていなさが、妙にカッコいいのはやはり建築家と場所の魂なのだろうか。日本のク・ナウカもここで公演したそうだ。
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↑は例のカフェ&バースペース。この横に昨日の超美味レストランがあります。
建物の上層部には、巨大なオフィススペースと、なんと保育所が! 保育所部分は別のNPOが管理運営しているそうですが、さっすがナント。アートセンターと保育所の融合まで先駆けているとは。ああ西巣鴨でも保育所をぜひやりたいなあ。
オフィスもかなり「ありもので頑張ってます感」は強く、親近感大。しかし「ありもの」を料理できるアーティストが介在しているのは確かで、とにかく手作りながら明確なアートの意思が伝わってくるのだ。行政側がハコを無償で提供するだけではなく、オペレーションに必要な長期的ビジョンと予算をくれなければ、こんなプロジェクトは実現しない。あとは愛だなあ、、、行政側であるボナンさんと、アート執行側のジャン・ブレーズ氏の間の信頼関係は強く、深い。
ジャン・ブレーズ氏は、パリでもおなじみとなったニュイ・ブランシュ(10月2日のブログ参照)の基本コンセプトを作り上げた凄腕のアートプロデューサーでもある。もともとナント市で行われていたLes Allumees レ・ザリュメというプロジェクトが原型となっており、その創設者がジャン・ブレーズである。2005年のニュイ・ブランシュは彼が唯一のアートディレクターになることが決定している。また、ブレーズ氏から直接プレゼンしてもらったのが、ロワール川の河口部(ナント市からサン・ナゼール市にかけての河川地帯)に複数のアートプロジェクトをインストールする一大プロジェクト Estuaire(その名も「河口」)プロジェクト。2007年6月15日~9月16日まで、河口全長40キロにわたって10個の巨大インスタレーション/アートプロジェクトが展開される。ジャン・ミシェル・ブルイヤール、ダニエル・ビュレンヌ、川俣正など、超有名アーティストのプロジェクトが既に動き出している。ボナンさんによると、2007年から少なくとも3回は継続することが既に決定しているという。2年前のプロジェクトがここまで形になっていること自体が驚異的だが、こういった、革新的なプロジェクトを次から次へと立ち上げて実現させる、その機動力と尽きない創造性はいったいどこからくるのだろうか。美術館や劇場という枠、あるいは単発のフェスティバルやビエンナーレという既存のアートの枠組みを飛び出し、そのとき、その場所で、そのコンテクストに必要なプロジェクトが立ち上げていく。そんな魔法のようなことが実現できるナントという都市の力、そして都市と強い信頼関係で結ばれたアートのメディエーターたちの驚異的な実行力。
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感激覚めやらぬまま、市役所へ。来日していた市の議員さんや職員らと再会。ロワイヤル・ド・リュックスのレセプション。(あの腰痛のため来日キャンセルとなった)市長はじめ皆中庭でスルタン(インドの王様)を待つこと1時間近く。日本だったら市長を1時間も外で待たせるなんでタブーなんだろうが、ナントではぜんぜんへっちゃらなよう。やっと到着したスルタン後一行が中庭に招き入れられ、市長が歓迎の挨拶を。それから招待客200人近くを招いての一大昼食会。オフィシャル席には市長夫妻とサルタンはじめジュール・ベルヌの世界の人々が! うーん、アーティストというよりはもはや得体の知れない怪しい一団と昼食をともにする市長・・・シュールな絵です。↓とにかくあのジャン・マルク・エーロー市長を拝みそびれた日本の皆様へ。本人です。(←元気そうじゃ~ない??)
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土曜日の昼らしくまったり3時過ぎまで昼食を堪能、それから一団はまた昼寝をする巨人ちゃんとエレファントのもとへ帰っていきました。そして筆者も人ごみに押しつぶされながらなんとかホテル・駅まで戻り、岐路に着きました。

パリに戻ったその足で、日本文化会館でグラインダーマンの公演へ。イスラエルやドイツを回って最終地パリに辿り着いた彼らのパフォーマンス、今まで何度か観た中で一番素直に楽しめた。ツアーの最後っていいなあ。パリの人々も大喜び。お疲れ様でした~
by smacks | 2005-05-21 23:21 | ■仏・ナント市関連