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日々の仕事のこと、観劇・鑑賞記録、出張報告など、国内外の舞台芸術を中心としたアートおよびアートマネジメント全般がテーマです。
by smacks
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カテゴリ:■TIF05-パレスチナ( 46 )

アラファト、意識不明

上越地震被災とイラク人質事件の報道で日本のメディアは大きく取り上げていないようだが、PLOのアラファト議長が一時意識不明に陥る危機的状況となっている。
○Yahoo-Japan 中東情勢トピックス
○アラファト議長パーソナル・データ

アラファトが軟禁されているPLO議長府を訪れたのは、つい先日10月8日のことだった。アラファトが死んだら・・・という、まさに中東のパンドラの箱が開けられる瞬間は近いのだろうか。しかしパレスチナの人々は「アラファトは不死身だ」と断言してやまない。パレスチナ国家、パレスチナ民族というアイデンティティを、対イスラエルの戦いとナクバ(1948年イスラエル建国によってパレスチナの人々に襲いかかった災禍)の苦難によって形作ってきた彼らにとって、アラファトはパレスチナの象徴であり、イコンなのだ。

ちなみに(日本以外の)世界のメディアは、いずれもトップニュースとしてこの情報を伝えている。

アラファトが死んでしまったら、パレスチナは、ラマッラーはどうなるのか? 
私たちの新作の行方はいかに?? 
by smacks | 2004-10-28 19:55 | ■TIF05-パレスチナ

イスラエルからの出国

10月8日

最後の日。アパートのリビングに泊まったハナが、最後の一日の面倒を見てくれる。朝7時にはアパートを出発、早速エルサレムへと向かう。これまで通っていたエルサレム-ラマッラー間のチェックポイントではなく、ハナが毎日通っている裏道ルートを通ることにする。何時間も待たされたり非人間的な扱いを受けるあのチェックポイントを通るくらいなら、毎日片道1時間半以上かけて丘を縫う様に走るこの道を通るほうがましだとハナは言った。その道のりも、多くのイスラエル入植地が点在している。それらは時にフェンスで覆われ、コロニーそのものが巨大な収容所のようにさえ見える。セキュリティという名の下に、彼らはホロコーストの記憶を再現しようとしているのではないか、そう思えて仕方がない。実際、パレスチナ自治区内に次々と建設されるこれらの入植地の中には、兵士の付き添いがなければ自由に出入りできない場合もあるほどだ。
かれこれ1時間以上車を走らせ、ようやくエルサレムに入る。たかが15キロのラマッラーとエルサレムを、1時間15分かけて走ったことになる。
車を旧市街に止めて、燃料切れした私のためにレストランへ。朝食はいつものアラビック・ブレックファースト。もしゃもしゃ。やっと再起動する。

それから旧市街を徒歩で回る。アラブ人地区はスークになっていて、カイロやチュニスで見たようなディープな商店街が延々と続いている。
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そして聖墳墓教会へ。ここはあまりにも有名なキリスト教のまさに激震地だ。ローマ皇帝コンスタンティヌスの母へレナが326年に聖地を巡礼し建立した。キリストが最後に処刑されたゴルゴダの丘とされる地点に建設され、内部にはイエスの墓であるアナスタシス(復活聖堂)がある。十字架から降ろされたイエスの聖骸に香油が塗られた石台では、巡礼者がひざまづいて触ったり接吻したりしている。観光客風情は我々ぐらいで、あとは熱心な信者や巡礼者の強烈な信仰心の磁場が形成されている。

それからまたスークを抜けて、今度はアルアクサモスクのほうへ。今日はあいにく金曜日、礼拝の日であるため信者以外の立ち入りは禁止されている。なんとなく近寄ったら、ムスリムたちが血相を変えて「入るな」と騒ぎ出さんばかりの剣幕さだ。こんなところにわざと入ったシャロンの意地汚い思惑が手に取るように分かる。戦いはいつも強いものがわざと仕掛けて弱いものを潰す。

エルサレムをあとにし、テルアビブの空港へとひたすら高速を飛ばす。フライトの3時間前には空港INしなければならない決まりだ。ここでハナともお別れ。もう家族みたいな感じで、次会えると思うと寂しさもない。

エールフランス航空のカウンターに行く前の段階、荷物検査の列に並んでいると、調査官が寄ってくる。旅の目的、滞在日数、職業、そして私と椿さんの関係を執拗に聞いてくる。年齢の大きく離れた男女が「友達」といってエルサレムを旅行する、ということに違和感を感じた彼らは、椿さんだけをつれて行ってしまう。がーん、これが一人づつ攻撃して矛盾を暴く例のやり方か! 私は長蛇の列に残されたまま、執拗な荷物検査にひっかかる。スーツケースは全部オープン、紙の一枚一枚までチェックされる。パソコンも別室にもっていかれてなかなか戻ってこない。かれこれ30分以上、つかまったままで途方にくれるが、やっと開放される。私などまだ良いほうで、きれいにラッピングしたお土産の一つ一つを開けられたり、下着まで全部オープンされて恥かしい思いをしている女性もいる。こんな厳しいセキュリティ・チェック、まあ自分の乗る飛行機だから安全であるに越したことはないが、ここまで執拗に感じが悪いとさすがにムスッとしてしまう。ただ、彼ら取調官はどう見ても大学ぽっと出の若いイスラエル人で、別に好きでこんな仕事をしているんじゃないことくらい、すぐに感じられる。彼らを責めてもどうにもならない。世界が変わらない限り、彼らも好きな仕事にはありつけないと思うと、ますますディープな気分になった。もちろんこんな一部始終もすべて監視カメラで撮影されているだろう。

ようやくチェックイン、出国手続きを済ませ、椿さんとビールで乾杯する。ようやく最後の難所をクリアした達成感と疲労感が同時に襲う。思えはこの5日間、相当緊張していたんだなあ。とりあえずお疲れ様でした~
飛行機に乗ってしまえばこっちのもの。ひたすらパリに戻るのみ。パリのCDGターミナル2Fに舞い戻る。ああ、5日前はここから飛び立った。なんと多くのことを経験しただろう。

関空行きは明日なのでパリで一泊する椿さんと別れ、乗り継ぎカウンターへ。そこで「東京行きはキャンセルされたという情報が入っているから、自分で出発フロアに行って確認してください」とのこと。そんな馬鹿なと思い出発フロアに行くと、ちゃんと52番ゲートに成田行きと出ている。やっぱり誤情報かと思って待つこと1時間。ところが、52番ゲートで待っている人々に日本人がまったくいない。あの時間厳守の日本人が出発フロアに一人もいないのはとてもおかしい。係員をつかまえて聞いてみると、「あ、東京行きは台風でキャンセルだからホテルへどうぞ」だって! そんならゲート前に表示するのやめてよ~ というわけで私の旅程は1日伸び、次の日朝早くにパリから経つ羽目に・・・。

あーあ、去年もカイロから戻る途中、魔の9月11日、とんでもないハプニングに見舞われましたねえ。飛行機が引き返しましたねえ、出発から7時間後に!! やはり中東からの岐路にはハプニングがつきものなのか。やれやれ~。
by smacks | 2004-10-08 15:31 | ■TIF05-パレスチナ

Smile, you are Palestinian

10月7日
快晴。朝11時ごろまで滞在先のアパートでジョージを待つ。10時ごろには迎えに来ると言っていたので若干心配したが、予想どおり今夜のバーベューの食材を買っていたとのこと。待ちながら椿さんと今回のパレスチナプロジェクトのアウトプットについて話し合う。
劇場に向かう道すがら、朝ごはんを兼ねてお菓子屋さんに連れて行ってくれる。そこで食したスィーツは、ナッツ系、チーズ系、いずれもあのアラブ菓子独特の甘さとボリュームだ。「これは、フェスティバルのウーメンズ・スタッフに、これはイチムラサンに」といってジョージが買ってくれたスィーツは、まさにてんこ盛り。大きいスーツケース持ってきてよかった。。
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劇場に入ると、ジョージのオフィスとハナのオフィスを行ったりきたりしながら、作品について、マネジメントについて議論は尽きない。特にアルカサバの経営状態について、その危機的な状況について。このままでは劇場が閉鎖されるのも時間の問題だとジョージは言う。毎月、役者に対するギャラを除いた劇場のランニング・コストは40,000USD.=約440万円。16名ものパーマメント・スタッフと、これだけの劇場&シネマテークがあれば、格安の金額ではあるが、それでも劇場とシネマテークのチケット収入だけではまったくまかなうことは不可能。国内に助成金システムがない以上、外部の援助に頼るしかない。昨日の芝居を見たパレスチナ国立劇場は、ノルウェー政府から毎月のランニング・コストを支援してもらっているという。ならばアルカサバも日本をはじめとする外国からの援助で何とかならないものか。今度日本に来日したときは、なるべく多くの潜在的支援者に会いたい、なるべく多くの公演をしたい。彼らはそう力説した。

椿さんはテクニカルのモアッズと舞台上でがんがんビジュアルとテクニックについて議論を戦わせていた。彼は照明も音響も舞台装置も担当しているため、芝居のテキストと役者以外についてはすべてを掌握している。モアッズ君は、今回の私たちのパレスチナ訪問のキーパーソンだ。ジョージが語るパレスチナや劇場、芝居とは別の視点で、そっと私たちに語りかける。

ジョージのオフィスでジャーナリストからインタビューを受ける。今回の日本・パレスチナの共同制作をなぜ企画したのかという質問だ。ジャーナリストはパレスチナで唯一文化専門の記者さん。アラブ世界のアート情報を集約した唯一のアートジャーナル、ZAYAYAにもパレスチナから記事を寄せる唯一のジャーナリストだ。もちろんあのピエール・アビザーブの親友でもある。今回の記事はぜひアル・ハヤート誌に掲載したいとのこと。3人の写真も撮る。

7時からは最新作「Smaile, you are Palestinian 」の公演。だが7時になっても会場の観客はまばら。「ここでは7時開演といったらみんな7時に家を出てくるんだ」。やっぱり。うすうすとは感じていたが、今日の公演は私のパレスチナ滞在にあわせて行ったものだった。客の数も多くはない。せいぜい100名といったところだろう。ぜひこの作品を東京で、共同制作する新作と一緒に上演してほしい。これが彼らの明白なメッセージだった。ジョージはこの作品について絶対的な自信を持っているようだ。ジョージナとカーメルの二人が扮するパレスチナ・カップルが、壁の建設や外出禁止令など厳しい状況下で、どんな夫婦にもありがちなお金の問題、子供の問題などを乗り越えられずに破局するという、それだけ聞くと実に絶望的なストーリーだが、役者たちの演技はいつもどおり実にユーモラスでしなやかで、テキストの随所には強烈なアイロニーが散りばめられている。アルカサバ独自の手法は健在だ。

それから役者さんたちや劇場のスタッフがジョージの豪邸に集合。私たちの歓迎と芝居の打ち上げを兼ねたバーベキュー・パーティだ。鳥モモの山。ハバッシュ(七面鳥)の山。ケバブの山。それらをテラスの巨大なバーベキューでモアッズが黙々と焼く。朝からバナナ1本で、椿さんとディープな議論をし、芝居の照明・舞台・音響を一人でこなし、そして山のような肉を黙々と焼き続けるモアッズ。なんてオトナな彼。偉すぎる。
食べながら、東京公演のDVDを観る。さすがにシアターTVのクルーが撮っただけあり、迫力の舞台+日本語字幕にみんな見入る。というか、このテレビって一体何インチ? ホームシアターとはまさにこのことだ。

お酒も入って一通り盛り上がったところで、私たちはまた目を覆うようなニュースを手にする。イスラエルとエジプトの国境付近、紅海に面するタバというリゾート地のホテルで爆破事件が発生、30名以上が死亡、100名以上が負傷した。ヒルトンホテルだ。血まみれの人々が次々と担架で担ぎ出される映像が繰り返される。
思えば私たちがここにきてたった4日、初日の夜にラマラで銃撃、毎日のようにガザで子供を含む市民が多数死亡、そして今日はヒルトンホテルでのテロ。
が、そんな厳しい現実を受け止める当人たちは、そんな最低の状況をサバイブするために、不謹慎なまでに洗練されたドライなギャクを連発している。そのブラック・ユーモアの質と量はすさまじい。
by smacks | 2004-10-07 15:28 | ■TIF05-パレスチナ

聖地を分断する「壁」

10月6日

曇り空。ジョギング帰りのジョージはまた、クマのプーサンのように感動的に大きなパンを抱えて帰ってくる。気分はすっかりジョージの小グマ。与えられるがままに、おとーちゃんグマが持ってくる餌をもらう小グマと化す。

今日はラマッラーを出てエルサレムへ。チェックポイントには、まるで学生のお芝居のようにまったく軍服姿が板についていないかわいい女の子が、機関銃を抱えて私たちを迎える。イスラエルに生きるということは、女性であろうと3年間の兵役を受け入れるということだ。3年間。大学を出る年頃のフツーの女の子であろう彼女たちにとって、時折自爆テロが起きるラマッラーとエルサレムの検問所で朝を迎えるということは、いったいどんなリアリティなのだろう。

***後日訂正***
上記、イスラエルの女性の兵役について、実際には21ヶ月であることを確認。訂正します。
イスラエル大使館HPイスラエル国防軍の記述より抜粋
「義務兵役有資格者は男女全員が満18歳で兵役につく。兵役期間は男子3年、女子21ケ月である。能力のある者は、兵役猶予が認められ高等教育機関で学ぶ機会が与えられる。新移民は、年齢、移住時の個人的事情により、兵役を免除されたり、期間短縮が認められる。 」

まずは西エルサレム。インターネットカフェでメールをしている間に、ジョージは隣のオーディオショップでYAMAHAのCDプレイヤーとレシーバーを購入。劇場のカフェ用だといっていたが、こうやってふらっと入った店で電化製品を買ってしまう性質、そういえばうちのボスとも何か共通点が・。・

西エルサレムの中心地、繁華街をふらつく。私は非常にいやな気分に襲われる。この繁華街で何発の爆弾が爆発し、どれだけの人が死んだのか。それでもストリートは実に活気に溢れ、多くの人々が集まっている。今日はユダヤ教の宗教的休日だという。こうしてカフェに座ってお茶を飲んでいることと、隣のカフェが爆破され人が死ぬことが、空間的連続を帯びていること、そしてそれが日常という平面に同列上に並んでいることが、私にはまったく信じられない。まあそれは地震を体験したことのない外国人が、地震がいつ起きるともしれず平静に日常をこなしている日本人を理解できない感覚と一緒なのかも知れない。エルサレムで爆弾テロで死ぬ確率と、日本で地震で死ぬ確率と、どっちが高いかな? 椿さんは阪神大震災で被災して以来、そういった不条理な死への恐怖を超越しているそうだが、私は明日死が偶然訪れても決して死に切れないだろうなあ。。。だってまだやりたいことたくさんあるし・・・!

それから朝日新聞エルサレム支局をたずねる。朝日新聞の堀内氏は、友人の元カレ(?)ということで間接的に紹介して頂いた方で、単身エルサレムで毎日、日本の朝に中東の情報を届けてくれる本人だ。ここ1週間で急速に悪化しつつあるガザ情勢のため、取材に駆け回っていらっしゃる。今回は新作の製作過程についても何かしらアウトプットしてきたいという考えから、まずは挨拶がてらにジョージと椿さんを紹介する。とても良いミーティングになったと椿さんもご満悦。

それから私たちはエルサレムの旧市街へと向かう。ユダヤ教の祝日であるため、旧市街は正装をしたユダヤ人で溢れている。岩のドーム、アルアクサモスクなど、映画や本で見たとおりの聖地が眼下に広がる。ああ、この辺をダビデやイエス、ムハンマドもさまよっていたんだなあ・・・
オリーブ山まで車で上がり、そこからエルサレム市内を一望する。ラクダと記念撮影をしたら「モデル代払え!」とたかってきた土産屋に向かい、ジョージは口げんかを始める。エジプトではこんなやつらばかりだったので慣れているが・・・。

それから車は東エルサレム、つまりアラブ人地区を走っていく。明らかに西エルサレムとは違う。「これを外部の人間が見たら、パレスチナ人は汚い人間たちだと思われてしまう。」同じ税金を払っても、社会的インフラの整備のされ方が西と東ではまったく違うという印象を受ける。道端にごみが散乱している。
そして車は、エルサレムを分断する壁まで到達する。目の前に高さ8メートルの壁がある。アラブ側にいる私たちには、アラファトの似顔絵や、アラビア語・英語のペインティングしか見えない。「前はエルサレムの向こう側に抜ける道があったのに、今はこの壁のせいでまだ同じ道を引きかえさなければならなくなった。」そう、道路は壁で分断されている。壁は生活を分断し、視界を分断する。
この重すぎる現実に何ができるのか。今はまだ圧倒されているだけだ。
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ずかんと落ち込んだ気分のまま、我々はベツレヘムに向かう。が、エルサレムとベツレヘムの間のチェックポイントに到着しても、前方の車がピクリとも動かない。そして待つこと10分、20分・・・何も起こらない。「こうやって何の理由もなく待たせるのが彼らの目的だ。」1ミリも動かない列に業を煮やし、ジョージは車をUターンさせた。

そして別のチェックポイントを経由してベツレヘム近郊の町へ。東京での公演でも大好評を博したハリード・マスさんの自宅にお邪魔させていただく。このお宅がまた素敵。典型的な地中海アラブの住宅で、中庭にはブドウやザクロの木が茂げる。91歳になるおじいちゃんと、ご両親と、自分+妻+子供たちという4世代住宅。テレビのキャスターをしているハリードの奥様(超アラブ美人!)と、お母さん、ダニエラとヨゼフという2人の子供たち、そして91歳になるおじいちゃん(写真)とおばあちゃんは隣の伝統的な家屋に住んでいる。なんというか感動的に美しい家で、4世代もの家族が平和に暮らしている。おばあちゃんのつくってくれた生絞りのザクロジュース、それから鶏肉のバーベキューとサラダ。お腹ちょっとすいた、という私の一言で出てきてしまったこれらのご馳走は感動的に美味しい。なんて豊かな暮らしなんだろう。
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「お隣さんもとってもいい人たちなんだ。父の家が爆撃で破壊されたときは、彼らの家にお世話になっていたんだ。」この平和で美しい暮らしに爆弾が降ってくることを誰が想像できよう。ハリードは美しい庭に造られた貯水タンクの蓋を開けて見せてくれた。「夏になるとイスラエルは水の供給をストップするから」地下穴が巨大な貯水タンクになっているのだ。
生活というもののリアリティ。このにこやかなクリスチャンの家庭は、ずっと昔からこの土地で暮らしている。ブドウやザクロの木と一緒に。
ハリードは来日に際し、劇団の中で唯一テルアビブ空港ではなくヨルダン経由の飛行機で来日した役者だ。つまり彼はイスラエルの発行するトラベル・ドキュメントを持っていないため、パレスチナ自治区から出てイスラエルのテリトリーに入ることができない。陸路でヨルダン川を越えてヨルダンから東京に来たのだ。ごくフツーの人々を襲うこれらの不条理な状況が、なんの解決も見ず日に日に悪化しているのが今のパレスチナだ。

それから私たちは東エルサレムに戻り、パレスチナ国立劇場へ。とはいえ運営しているのは民間組織。ナショナルといってもパレスチナ暫定政府が設立したわけではもちろんない。今日はこの劇場がつくった新作の公開ゲネプロだ。エントランスでマフムードとイスマエルにも再会する。主演はあのカーメル。東京公演ではソロモン王のモノローグ披露した渋めの役者だ。平和に暮らしている老夫婦の元に、突然2人の息子が戻ってくる。壁の建設によって家が破壊されたので、家族ごと実家に戻らせてくれという。それから総勢17名の超大家族生活が始まるが、当然狭い家で奥様方のストレスが爆発。それもこれもイスラエルのせいだ!この現実を何とかしよう!と子供たちが決起するというストーリーだそうだ。大勢の子供たちと肝っ玉母ちゃんが繰り広げる世界は、ほとんどドリフターズと一緒で聴衆は爆笑に包まれる。まあ大衆娯楽という雰囲気なのだが、ジョージはこんなビジョンも内的な深みもない芝居を新作でつくるなんてと嘆いた。
終わった後は、ロビーで関係者が集まっての反省会。40人は残っているだろうか。子役たちも参加しているが、よくしつけられているので騒ぎ声のひとつもでない。日本の子供が夜の9時に大人の集会に参加したらどんなひどいことになるか、想像するだに恐ろしい。私と椿さんはタバコを吸いながら、このパレスチナの豊かな現実を前に、日本人の内面に巣食った恐るべき貧困を静かにかみ締めていた。
by smacks | 2004-10-06 15:25 | ■TIF05-パレスチナ

閉ざされたラマッラー

10月5日

コーランの音で目が覚める。一瞬ここはどこ?状態に陥る。気がつけばクィーンサイズのベットにいる。そう、ここはラマッラー。そんな朝が自分の身にやってくるなんて、我ながら改めて驚く。
部屋を出ると既に椿さんもジョージも、そしてなぜかアルカサバ劇場のテクニカル・ディレクターのモアッズ君もいる。彼は昨日遅くまで働いていたため岐路につけずにラマッラーにとどまったとのこと。「ここは劇場の誰でもが泊まれる避難所なんだ」。そんな部屋がたくさんあること自体が普通あり得ない。

ジョギングから帰ってきたジョージが抱えているのは、山のようなパン。まるで座布団のようなナンが3種類、それに豆やらオリーブのペーストをつけて食する。ジョージ、せっかく6キロも走ってもそんなに食べたら戻るよ・・・と誰しもが唖然とする中、もくもくと食べ続けるジョージ。
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「Today, city is closed」。それが何を意味するのが、理解するのに時間がかかった。昨日、私たちが食事をしたレストランの近くで、同じ時間帯に、2人のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺害された。椿さんが聞いた音は空耳ではなかった。そして今日、街はその出来事を悼み抗議するために、closed される。つまり、商店が閉鎖され、ビジネスが中止してしまうという意味だ。
劇場に向かう途中、我々は昨日の事件現場近くを探した。私たちが食事をしたレストランの、ほんの100メートルの地点だった。この現実はいったい何を意味しているのだろうか?

劇場に到着すると、ジョージの弟ハナ、そしてアルカサバの看板女優ジョージナに再会する。それから私たちはアディーラ・ライディ率いるサカキーニ文化センターへと向かう。昨年の夏、日本で行われた展覧会「シャヒード100の命」展を企画した文化センターで、私はそのディレクター、アディーラ・ライディと日本で会って以来メールで情報交換をしていた。彼女はアルジェリア人、パレスチナ人の夫とラマッラーに暮らしている。完璧なフランス語と流暢な英語(と、もちろんアラビア語ネイディブ)を、マシンガンのような勢いで話す。どうみても30台前半でこのセンターをディレクションしている彼女は、欧米の女性キュレーターにありがちな才色兼備のまさに典型。センター内を一通り紹介してもらう。とても美しいセンターだが、もちろんここも2002年のイスラエル軍ラマラ侵攻では攻撃の対象となった。故意にねじあけられ破壊されたセンターの鉄門が、静かに展示されている。

午後はジョージのオフィスで、ひたすらアルカサバ劇場がこれまでに制作した数々の作品を大画面で鑑賞、新作の方向性を決めるための材料を頭に叩き込む時間となる。ぶっ通しで4時間ほど映像とディスカッションをして頭はかなりフルな状態に。
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劇場のテクニカルなどもチェックして、それからジョージの豪邸に戻り、ジョージのEXワイフが作ってくださったパレスチナの伝統料理を頂く。これがとにかく美味しい。思わず「これが、料理というものだ」と自分に確認してしまうほど。果物も仰天するほどうまい。「なぜパレスチナが占領されるのか、この果物たちを食べれば解るだろう」とジョージは笑った。占領されるのは、「食べ物が美味しくて、気候が良くて、女の子がかわいいところ」というのは確かに人類史の常識かも知れない。

食後は椿さんのプレゼンテーション。初めて拝見させていただく貴重なDVD資料で、私も同席したジョージとモアッズもえらく興奮。やっぱりクレイジー万歳。椿さん万歳! 強度の批評性を鋭い造形に落とし込み、システムそのものとして提示する。がっつりと社会に対して問題提起をする、日本では奇跡のような作家だ。この人と仕事ができて本当に幸せ。
そしてアラックを飲みながら新作に向けたブレーン・ストーミング。延々4時間。まだジョージの頭の中にある構想と、椿さんの溢れ出るイメージ、そしてパレスチナの現実をどう日本の「イノセント」な聴衆に伝えるかという試行錯誤に議論は尽きない。

部屋に戻って3人でパレスチナのローカルチャンネルを見る。パレスチナのニュース、つまりガザとラマラで人が死んだというニュースが延々と流される。一通りニュースが終わると、ニュースよりもさらにすごいものが流されている。それは、なんとパレスチナのプロモーション・ビデオとでも呼べばよいのか。アラブ歌謡のスターの熱唱サウンドに、イスラエルの攻撃によって傷ついた、あるいは既に死体と化した人々の映像の断片が延々とリピートされる。そこに物語はない。ただ爆弾でふっとんだ肉体、べっとり地面にへばりつく血、救急車から運び出される血まみれの子供…そういった即物的な映像が、演歌のようにコテコテのアラブ・サウンドとともに垂れ流される。そして歌は語りかける。「アラブはどこへ行ってしまったのか?」と。なぜパレスチナを助けてくれないのか、と。モアッズは「このチャンネルは最低だ。」と言った。

彼の弟さんは5年の刑に処されている。エルサレムでイスラエルの警察を狙った爆破事件を計画したという疑惑をかけられているというが、彼は建築家だ。「先日会いに行ったら、髪の毛が全部白髪になっていた。」そしてもう一人、モアッズの叔父さんはなんと22年の刑に処され、既に17年も牢獄にいる。あと5年。人生の20代から40代を牢獄で過ごす人間に対して、アムネスティ・インターナショナルは無力だという。裁判もなく、弁護士もいない。そしてモアッズ自身、1年ちょっと刑務所を体験している。「刑務所は最高の学校だ」と彼は不敵に笑った。
by smacks | 2004-10-05 15:24 | ■TIF05-パレスチナ

パレスチナの非日常という日常

10月4日

シャルルドゴール空港2Fターミナル。朝の2Fからはエールフランス航空が旧植民地方向へと飛ばす飛行機が多く離陸する。パリはアフリカや中東アラブワールドの交差点なのだ。テルアビブ行きのゲートの隣は、ベイルート行きのゲート。ほぼ同刻に同地点から、2つの飛行機は決して超えられない国境を挟んだ2つの都市へと飛び立っていく。ターミナルではユダヤ人もアラブ人も同じフロアで同じように飛行機を待っているのに、降りた先には越えられない壁が待っている。レバノンではイスラエルのパスポートのスタンプがあるだけで入国を拒否される。

機内ではヘブライ語が飛び交い、ほとんどの人々がフランスに休暇やビジネスに来ていたイスラエル人であろう。観光客風情は我々くらいだが、機内は満席だった。4時間も乗ればそこはすでにテルアビブ。入国審査ではイスラエルの滞在先を「シェラトン・エルサレム・プラーザ」ということにして難なく突破。まあそんなものかと思う反面、出国のときの心配はかなり大。

そしてあのジョージ・イブラヒムと感動の再会を果たす。ジョージ、相変わらずぷにぷにのお腹でクマのプーさんのような包容力なのだが、ちょっとだけウエスト細くなったよね?と聞いたら、「毎日ウォーキングと運動、自宅でサウナしてる」だって。自宅でサウナ? でもって自家用車はアウディ。やっぱりこの人、お金持ち・・予想どおりというべきか。

ジョージの運転する車でテルアビブ空港からラマラに向かう。テルアビブ空港のすぐそばに「僕が生まれた場所、ラムラ」とジョージ。小さな村だ。そしてハイウェイ沿いに、私たちは無数の「Israeli Settlements」つまり入植地を目にすることになる。それらは67年地帯、第3次中東戦争によってイスラエルが拡大した占領地で、現在も国際社会がその正当性を認めていない地帯に建設されている。「あの丘一体がイスラエルの入植地で、その脇にあるのはパレスチナの村だ」。入植地と村は時に目と鼻の先にある。67年以来、入植地はどんどん増え続けている。そしてパレスチナの村々を包囲し、分断し、まるで抱きかかえるかのように。」

イスラエル管轄の車には黄色のナンバーがついている。イスラエルIDを持っているジョージの車も黄色のナンバーだ。それに対しパレスチナ自治区が管轄する車のナンバーは緑色。その車は自治区の外に出ることを許されていない。
私たちはいよいよ、エルサレムを経由してエルサレムとラマラの間にある最大のチェックポイントに近づいていく。突然視界に「壁」が現れる。あたかも道路の中央分離帯が巨大な塀になったかのようだ。道路は壁工事のせいか細かな土が泥と化し、ぬかるんででこぼこしている。この道を通ればどんなきれいな乗用車も泥まみれになるだろう。
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大量の車両が我先にチェックポイントに向かうため、あたりはクラクションの嵐。ジョージも負けずとクラクションを鳴らし、相手を罵倒している。みんな殺気立っている。歩行者用のチェックポイントもあり、徒歩で通過しようとする人々がひしめいている。特にラマラ側からエルサレム側への通過口では、多くの人が鉄柵で区切られた細い通路にひしめきあい、その光景は監獄の光景を喚起する。あるいは、ユダヤ人が体験した強制収容所の映像ともフラッシュバックする。柵がなければ、日本の満員電車や改札口とも通じるものがあるかも知れない。


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検問所では私ももちろんパスポートを提示させられるが、特に車を降りたりパスポートを調べたりする様子はない。イスラエル兵といっても、彼らは3年の兵役を淡々とこなしているフツーの若者にしか見えない。しかし皆が本物の機関銃を肩から下げている。

検問所の先は、いよいよラマッラーだ。検問所から10分もしないところにジョージ宅はある。集合住宅の6階部分で、私たちが滞在するのはそのすぐ下の5階部分だ。日本の感覚でいうならば、そこはハイグレードな高級マンションとでも言えばよいのか。床は全部大理石。リビングだけでかるく40m2はあるだろう、加えて広いキッチンには大きな冷蔵庫にフルーツや食材が全部そろえてある。それからベットルームが3つ、それぞれに美しく巨大なクローゼットとベットがあり、広いバスルームも2つある。東京でこのレベルのマンションを買ったら絶対億はするだろうな。。。次に上階のジョージ宅に案内される。そこはまさに豪邸。っていうか、一体ここはどこ? 個人宅にあることが信じられないものばかり。多種多様なお酒が並ぶカウンターバー、広いキッチンには私が3人くらい入れる巨大な冷蔵庫、リビングのTVは100インチを超えてる? ホームシアターってやつでしょうか。広いテラスからはエルサレムが一望でき、本格的なバベキュー用の「かまど」もある。以上がジョージのリビング部分。もちろんバスルームもある。さらに。ジョージのプライベートスペースは、書斎、ベットルーム、トレーニング・ルーム各種、ジャグジー、サウナ、バスルーム、があり、さらに娘さんのタミラさんのスペースが続く。恐れ入りました・・ジョージ・イブラヒム個人が有名な俳優・演出家として気づき上げた財産は、途方もないようだ。そりゃ、こんな人からみりゃ、日本のアートNPOなんて乞食みたいなもんでしょう。あは。しかもジョージ、別れた奥様にも同様の豪邸を購入、劇場にだってびっくりするような金額を寄付している。ノーブルな金持ちのお手本みたいな人だ。

それからアルカサバシアター&シネマテークに向かう。ジョージ宅から車で5分くらいだが、坂道を降りたり上がったりするので徒歩だと結構大変そうな道のりだ。劇場はカサバ=中心部にある。写真で観たとおりのホール2つやオフィスを一通り拝見。アルカサバとのコンタクトをとりはじめてからちょうど2年。ラマッラーの場所さえ知らなかった自分が、初めてジョージにメールを書いて返事をもらってから、互いにどれだけの発見と交流があったことだろう。そう思うと今自分が2年間の歳月を経てこの劇場にたどり着いたことに、改めて深い感慨を覚えた。
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それからジョージは、私たちを「ラマッラーで一番おいしい、一番有名な、最高のレストラン」に連れて行ってくれる。オープンテラスになっていて、豊富なメニューととても丁寧なサービス。どこかのリゾート地に来たとした思えない夢のようなレストランだ。アラファト議長だって来てるかも。でもそしたら上からミサイルが降ってくるか・・・などと考えながら、料理を注文する。最初はお決まりのひよこ豆のペーストなどパンにつけて食べる前菜やピクルス。しかしそれだけでかなりのボリューム。肉を愛する私はメインにもちろんケバブをオーダー。椿さんはシーフド、ジョージは鳩の丸焼き。やっぱり手づかみでむしゃむしゃ食べるあたり、どう見てもクマさんである。どれもこれも超美味しい。幸せの瞬間にぼうっとしてしまう。そしてお決まりのナギーラ(水煙管)。ラマッラーで美食とナギーラに恍惚としている我々を、一体誰が想像しただろう? 少なくともそこには普通の生活があり、日常は何が起ころうとたくましく続いている。
椿さんが「なんか聞こえるけど、何の音かな」と言った。私はよく聞こえなかった。ジョージは「なんでもないさ」と言った。
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豪邸に戻って、椿さんと二人でほけっとする。あのとてつもない壁とチェックポイントを通過してやってきたラマッラーで、王侯貴族のような生活。その極端な二つのリアリティが乖離したまま、同じ平面で考えることができない。思わず、椿さん昨日ポンピドゥーで買ったマシュー・バーニーのDVDを大画面で再生する。ラマッラーでリクライニング・チェアに寝そべりながらマシュー・バーニー。誰が想像するでしょう、こんな生活?
by smacks | 2004-10-04 15:21 | ■TIF05-パレスチナ


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