ブエノスアイレス出張②:アルゼンチン演劇

今回の出張の目的は、ただひとつ。2年に一度開催される、南米随一の国際演劇祭であるブエノスアイレス演劇祭で紹介されているアルゼンチンの演劇作品を見ること。とにかく観まくった。一日平均4本、5日間で25本は見た。文字どおり、朝から晩まで、劇場で作品を観続ける生活。

▼ アルゼンチン演劇 

アルゼンチンの演劇状況は、ある意味、日本の演劇状況に近いものがあると思う。まず商業劇場があり、権威的な国立劇場がある一方で、いわゆる現代演劇の最先端を生み出し牽引しているのは、インディペンデントの劇団やアーティストたちである。彼らは創作活動以外の職業を持ち経済的には演劇に依存せず、作品を作り続けているという。その代表格が、スポルティヴォ・テアトラルという独立した劇団・劇場を持つ演出家リカルド・バルティス。そして、Periferico de los objetosというアーティスト集団で活動してきた40代のアーティストたちが、現在でもアルゼンチンの演劇シーンの核を形成している。現在、演劇を志しているほとんどの演出家や役者は、バルティスあるいはのアーティストたちのもとで学んでいるという。

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↑ Sportivo Theatral の本拠地 古い民家が劇場であり、舞台装置でもある。

▼ 国内プログラム

フェスティバルでは、国内の作品だけでも20作品は観た。ダンスは、全般的にデジャビュなテクニックや動き、テイストが目立ち、オリジナリティに欠けているという印象を受けた。それに対して演劇は役者のレベルが総じて非常に高かった。また、今回見た中ではサラ・ケインの「渇望」、イェリネックの「Bambiland」、そしてチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の翻案など、既存戯曲に取り組みアーティストが少なくないようだ。残念ながら細かいドラマトゥルギーの展開などはスペイン語を解さない筆者には完全には把握できなかったが、ブエノスアイレスという、他の世界の演劇界からは遠く離れた地において、それぞれのアーティストが互いに刺激しあい、新しい実験が絶え間なく行われているのは強く感じることができた。

ちなみにフェスティバルの国内プログラムは20ほどの作品を紹介しているのだが、そのいずれもが、無料で観劇できる。そのためどの劇場も若者で満杯。この社会には、演劇のための場所が確実にあり、演劇を必要としている人々も確実にいるのだということがよく分かった。
これから数年かけて、TIFでは南米の演劇を紹介していくことになるだろう。その第一歩として、きわめて実り多い観劇体験ができたということだけは、ここに書いておきたい。その成果は、今後3~4年をかけて問いかけていきたい。

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↑ マリアーノ・ペンソッティ演出 「ディスコ」イベント
by smacks | 2007-09-19 02:24