smacks dialy

日々の仕事のこと、観劇・鑑賞記録、出張報告など、国内外の舞台芸術を中心としたアートおよびアートマネジメント全般がテーマです。
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聖地を分断する「壁」

10月6日

曇り空。ジョギング帰りのジョージはまた、クマのプーサンのように感動的に大きなパンを抱えて帰ってくる。気分はすっかりジョージの小グマ。与えられるがままに、おとーちゃんグマが持ってくる餌をもらう小グマと化す。

今日はラマッラーを出てエルサレムへ。チェックポイントには、まるで学生のお芝居のようにまったく軍服姿が板についていないかわいい女の子が、機関銃を抱えて私たちを迎える。イスラエルに生きるということは、女性であろうと3年間の兵役を受け入れるということだ。3年間。大学を出る年頃のフツーの女の子であろう彼女たちにとって、時折自爆テロが起きるラマッラーとエルサレムの検問所で朝を迎えるということは、いったいどんなリアリティなのだろう。

***後日訂正***
上記、イスラエルの女性の兵役について、実際には21ヶ月であることを確認。訂正します。
イスラエル大使館HPイスラエル国防軍の記述より抜粋
「義務兵役有資格者は男女全員が満18歳で兵役につく。兵役期間は男子3年、女子21ケ月である。能力のある者は、兵役猶予が認められ高等教育機関で学ぶ機会が与えられる。新移民は、年齢、移住時の個人的事情により、兵役を免除されたり、期間短縮が認められる。 」

まずは西エルサレム。インターネットカフェでメールをしている間に、ジョージは隣のオーディオショップでYAMAHAのCDプレイヤーとレシーバーを購入。劇場のカフェ用だといっていたが、こうやってふらっと入った店で電化製品を買ってしまう性質、そういえばうちのボスとも何か共通点が・。・

西エルサレムの中心地、繁華街をふらつく。私は非常にいやな気分に襲われる。この繁華街で何発の爆弾が爆発し、どれだけの人が死んだのか。それでもストリートは実に活気に溢れ、多くの人々が集まっている。今日はユダヤ教の宗教的休日だという。こうしてカフェに座ってお茶を飲んでいることと、隣のカフェが爆破され人が死ぬことが、空間的連続を帯びていること、そしてそれが日常という平面に同列上に並んでいることが、私にはまったく信じられない。まあそれは地震を体験したことのない外国人が、地震がいつ起きるともしれず平静に日常をこなしている日本人を理解できない感覚と一緒なのかも知れない。エルサレムで爆弾テロで死ぬ確率と、日本で地震で死ぬ確率と、どっちが高いかな? 椿さんは阪神大震災で被災して以来、そういった不条理な死への恐怖を超越しているそうだが、私は明日死が偶然訪れても決して死に切れないだろうなあ。。。だってまだやりたいことたくさんあるし・・・!

それから朝日新聞エルサレム支局をたずねる。朝日新聞の堀内氏は、友人の元カレ(?)ということで間接的に紹介して頂いた方で、単身エルサレムで毎日、日本の朝に中東の情報を届けてくれる本人だ。ここ1週間で急速に悪化しつつあるガザ情勢のため、取材に駆け回っていらっしゃる。今回は新作の製作過程についても何かしらアウトプットしてきたいという考えから、まずは挨拶がてらにジョージと椿さんを紹介する。とても良いミーティングになったと椿さんもご満悦。

それから私たちはエルサレムの旧市街へと向かう。ユダヤ教の祝日であるため、旧市街は正装をしたユダヤ人で溢れている。岩のドーム、アルアクサモスクなど、映画や本で見たとおりの聖地が眼下に広がる。ああ、この辺をダビデやイエス、ムハンマドもさまよっていたんだなあ・・・
オリーブ山まで車で上がり、そこからエルサレム市内を一望する。ラクダと記念撮影をしたら「モデル代払え!」とたかってきた土産屋に向かい、ジョージは口げんかを始める。エジプトではこんなやつらばかりだったので慣れているが・・・。

それから車は東エルサレム、つまりアラブ人地区を走っていく。明らかに西エルサレムとは違う。「これを外部の人間が見たら、パレスチナ人は汚い人間たちだと思われてしまう。」同じ税金を払っても、社会的インフラの整備のされ方が西と東ではまったく違うという印象を受ける。道端にごみが散乱している。
そして車は、エルサレムを分断する壁まで到達する。目の前に高さ8メートルの壁がある。アラブ側にいる私たちには、アラファトの似顔絵や、アラビア語・英語のペインティングしか見えない。「前はエルサレムの向こう側に抜ける道があったのに、今はこの壁のせいでまだ同じ道を引きかえさなければならなくなった。」そう、道路は壁で分断されている。壁は生活を分断し、視界を分断する。
この重すぎる現実に何ができるのか。今はまだ圧倒されているだけだ。
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ずかんと落ち込んだ気分のまま、我々はベツレヘムに向かう。が、エルサレムとベツレヘムの間のチェックポイントに到着しても、前方の車がピクリとも動かない。そして待つこと10分、20分・・・何も起こらない。「こうやって何の理由もなく待たせるのが彼らの目的だ。」1ミリも動かない列に業を煮やし、ジョージは車をUターンさせた。

そして別のチェックポイントを経由してベツレヘム近郊の町へ。東京での公演でも大好評を博したハリード・マスさんの自宅にお邪魔させていただく。このお宅がまた素敵。典型的な地中海アラブの住宅で、中庭にはブドウやザクロの木が茂げる。91歳になるおじいちゃんと、ご両親と、自分+妻+子供たちという4世代住宅。テレビのキャスターをしているハリードの奥様(超アラブ美人!)と、お母さん、ダニエラとヨゼフという2人の子供たち、そして91歳になるおじいちゃん(写真)とおばあちゃんは隣の伝統的な家屋に住んでいる。なんというか感動的に美しい家で、4世代もの家族が平和に暮らしている。おばあちゃんのつくってくれた生絞りのザクロジュース、それから鶏肉のバーベキューとサラダ。お腹ちょっとすいた、という私の一言で出てきてしまったこれらのご馳走は感動的に美味しい。なんて豊かな暮らしなんだろう。
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「お隣さんもとってもいい人たちなんだ。父の家が爆撃で破壊されたときは、彼らの家にお世話になっていたんだ。」この平和で美しい暮らしに爆弾が降ってくることを誰が想像できよう。ハリードは美しい庭に造られた貯水タンクの蓋を開けて見せてくれた。「夏になるとイスラエルは水の供給をストップするから」地下穴が巨大な貯水タンクになっているのだ。
生活というもののリアリティ。このにこやかなクリスチャンの家庭は、ずっと昔からこの土地で暮らしている。ブドウやザクロの木と一緒に。
ハリードは来日に際し、劇団の中で唯一テルアビブ空港ではなくヨルダン経由の飛行機で来日した役者だ。つまり彼はイスラエルの発行するトラベル・ドキュメントを持っていないため、パレスチナ自治区から出てイスラエルのテリトリーに入ることができない。陸路でヨルダン川を越えてヨルダンから東京に来たのだ。ごくフツーの人々を襲うこれらの不条理な状況が、なんの解決も見ず日に日に悪化しているのが今のパレスチナだ。

それから私たちは東エルサレムに戻り、パレスチナ国立劇場へ。とはいえ運営しているのは民間組織。ナショナルといってもパレスチナ暫定政府が設立したわけではもちろんない。今日はこの劇場がつくった新作の公開ゲネプロだ。エントランスでマフムードとイスマエルにも再会する。主演はあのカーメル。東京公演ではソロモン王のモノローグ披露した渋めの役者だ。平和に暮らしている老夫婦の元に、突然2人の息子が戻ってくる。壁の建設によって家が破壊されたので、家族ごと実家に戻らせてくれという。それから総勢17名の超大家族生活が始まるが、当然狭い家で奥様方のストレスが爆発。それもこれもイスラエルのせいだ!この現実を何とかしよう!と子供たちが決起するというストーリーだそうだ。大勢の子供たちと肝っ玉母ちゃんが繰り広げる世界は、ほとんどドリフターズと一緒で聴衆は爆笑に包まれる。まあ大衆娯楽という雰囲気なのだが、ジョージはこんなビジョンも内的な深みもない芝居を新作でつくるなんてと嘆いた。
終わった後は、ロビーで関係者が集まっての反省会。40人は残っているだろうか。子役たちも参加しているが、よくしつけられているので騒ぎ声のひとつもでない。日本の子供が夜の9時に大人の集会に参加したらどんなひどいことになるか、想像するだに恐ろしい。私と椿さんはタバコを吸いながら、このパレスチナの豊かな現実を前に、日本人の内面に巣食った恐るべき貧困を静かにかみ締めていた。
by smacks | 2004-10-06 15:25 | ■TIF05-パレスチナ
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