smacks dialy

日々の仕事のこと、観劇・鑑賞記録、出張報告など、国内外の舞台芸術を中心としたアートおよびアートマネジメント全般がテーマです。
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閉ざされたラマッラー

10月5日

コーランの音で目が覚める。一瞬ここはどこ?状態に陥る。気がつけばクィーンサイズのベットにいる。そう、ここはラマッラー。そんな朝が自分の身にやってくるなんて、我ながら改めて驚く。
部屋を出ると既に椿さんもジョージも、そしてなぜかアルカサバ劇場のテクニカル・ディレクターのモアッズ君もいる。彼は昨日遅くまで働いていたため岐路につけずにラマッラーにとどまったとのこと。「ここは劇場の誰でもが泊まれる避難所なんだ」。そんな部屋がたくさんあること自体が普通あり得ない。

ジョギングから帰ってきたジョージが抱えているのは、山のようなパン。まるで座布団のようなナンが3種類、それに豆やらオリーブのペーストをつけて食する。ジョージ、せっかく6キロも走ってもそんなに食べたら戻るよ・・・と誰しもが唖然とする中、もくもくと食べ続けるジョージ。
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「Today, city is closed」。それが何を意味するのが、理解するのに時間がかかった。昨日、私たちが食事をしたレストランの近くで、同じ時間帯に、2人のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺害された。椿さんが聞いた音は空耳ではなかった。そして今日、街はその出来事を悼み抗議するために、closed される。つまり、商店が閉鎖され、ビジネスが中止してしまうという意味だ。
劇場に向かう途中、我々は昨日の事件現場近くを探した。私たちが食事をしたレストランの、ほんの100メートルの地点だった。この現実はいったい何を意味しているのだろうか?

劇場に到着すると、ジョージの弟ハナ、そしてアルカサバの看板女優ジョージナに再会する。それから私たちはアディーラ・ライディ率いるサカキーニ文化センターへと向かう。昨年の夏、日本で行われた展覧会「シャヒード100の命」展を企画した文化センターで、私はそのディレクター、アディーラ・ライディと日本で会って以来メールで情報交換をしていた。彼女はアルジェリア人、パレスチナ人の夫とラマッラーに暮らしている。完璧なフランス語と流暢な英語(と、もちろんアラビア語ネイディブ)を、マシンガンのような勢いで話す。どうみても30台前半でこのセンターをディレクションしている彼女は、欧米の女性キュレーターにありがちな才色兼備のまさに典型。センター内を一通り紹介してもらう。とても美しいセンターだが、もちろんここも2002年のイスラエル軍ラマラ侵攻では攻撃の対象となった。故意にねじあけられ破壊されたセンターの鉄門が、静かに展示されている。

午後はジョージのオフィスで、ひたすらアルカサバ劇場がこれまでに制作した数々の作品を大画面で鑑賞、新作の方向性を決めるための材料を頭に叩き込む時間となる。ぶっ通しで4時間ほど映像とディスカッションをして頭はかなりフルな状態に。
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劇場のテクニカルなどもチェックして、それからジョージの豪邸に戻り、ジョージのEXワイフが作ってくださったパレスチナの伝統料理を頂く。これがとにかく美味しい。思わず「これが、料理というものだ」と自分に確認してしまうほど。果物も仰天するほどうまい。「なぜパレスチナが占領されるのか、この果物たちを食べれば解るだろう」とジョージは笑った。占領されるのは、「食べ物が美味しくて、気候が良くて、女の子がかわいいところ」というのは確かに人類史の常識かも知れない。

食後は椿さんのプレゼンテーション。初めて拝見させていただく貴重なDVD資料で、私も同席したジョージとモアッズもえらく興奮。やっぱりクレイジー万歳。椿さん万歳! 強度の批評性を鋭い造形に落とし込み、システムそのものとして提示する。がっつりと社会に対して問題提起をする、日本では奇跡のような作家だ。この人と仕事ができて本当に幸せ。
そしてアラックを飲みながら新作に向けたブレーン・ストーミング。延々4時間。まだジョージの頭の中にある構想と、椿さんの溢れ出るイメージ、そしてパレスチナの現実をどう日本の「イノセント」な聴衆に伝えるかという試行錯誤に議論は尽きない。

部屋に戻って3人でパレスチナのローカルチャンネルを見る。パレスチナのニュース、つまりガザとラマラで人が死んだというニュースが延々と流される。一通りニュースが終わると、ニュースよりもさらにすごいものが流されている。それは、なんとパレスチナのプロモーション・ビデオとでも呼べばよいのか。アラブ歌謡のスターの熱唱サウンドに、イスラエルの攻撃によって傷ついた、あるいは既に死体と化した人々の映像の断片が延々とリピートされる。そこに物語はない。ただ爆弾でふっとんだ肉体、べっとり地面にへばりつく血、救急車から運び出される血まみれの子供…そういった即物的な映像が、演歌のようにコテコテのアラブ・サウンドとともに垂れ流される。そして歌は語りかける。「アラブはどこへ行ってしまったのか?」と。なぜパレスチナを助けてくれないのか、と。モアッズは「このチャンネルは最低だ。」と言った。

彼の弟さんは5年の刑に処されている。エルサレムでイスラエルの警察を狙った爆破事件を計画したという疑惑をかけられているというが、彼は建築家だ。「先日会いに行ったら、髪の毛が全部白髪になっていた。」そしてもう一人、モアッズの叔父さんはなんと22年の刑に処され、既に17年も牢獄にいる。あと5年。人生の20代から40代を牢獄で過ごす人間に対して、アムネスティ・インターナショナルは無力だという。裁判もなく、弁護士もいない。そしてモアッズ自身、1年ちょっと刑務所を体験している。「刑務所は最高の学校だ」と彼は不敵に笑った。
by smacks | 2004-10-05 15:24 | ■TIF05-パレスチナ
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