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日々の仕事のこと、観劇・鑑賞記録、出張報告など、国内外の舞台芸術を中心としたアートおよびアートマネジメント全般がテーマです。
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パレスチナの非日常という日常

10月4日

シャルルドゴール空港2Fターミナル。朝の2Fからはエールフランス航空が旧植民地方向へと飛ばす飛行機が多く離陸する。パリはアフリカや中東アラブワールドの交差点なのだ。テルアビブ行きのゲートの隣は、ベイルート行きのゲート。ほぼ同刻に同地点から、2つの飛行機は決して超えられない国境を挟んだ2つの都市へと飛び立っていく。ターミナルではユダヤ人もアラブ人も同じフロアで同じように飛行機を待っているのに、降りた先には越えられない壁が待っている。レバノンではイスラエルのパスポートのスタンプがあるだけで入国を拒否される。

機内ではヘブライ語が飛び交い、ほとんどの人々がフランスに休暇やビジネスに来ていたイスラエル人であろう。観光客風情は我々くらいだが、機内は満席だった。4時間も乗ればそこはすでにテルアビブ。入国審査ではイスラエルの滞在先を「シェラトン・エルサレム・プラーザ」ということにして難なく突破。まあそんなものかと思う反面、出国のときの心配はかなり大。

そしてあのジョージ・イブラヒムと感動の再会を果たす。ジョージ、相変わらずぷにぷにのお腹でクマのプーさんのような包容力なのだが、ちょっとだけウエスト細くなったよね?と聞いたら、「毎日ウォーキングと運動、自宅でサウナしてる」だって。自宅でサウナ? でもって自家用車はアウディ。やっぱりこの人、お金持ち・・予想どおりというべきか。

ジョージの運転する車でテルアビブ空港からラマラに向かう。テルアビブ空港のすぐそばに「僕が生まれた場所、ラムラ」とジョージ。小さな村だ。そしてハイウェイ沿いに、私たちは無数の「Israeli Settlements」つまり入植地を目にすることになる。それらは67年地帯、第3次中東戦争によってイスラエルが拡大した占領地で、現在も国際社会がその正当性を認めていない地帯に建設されている。「あの丘一体がイスラエルの入植地で、その脇にあるのはパレスチナの村だ」。入植地と村は時に目と鼻の先にある。67年以来、入植地はどんどん増え続けている。そしてパレスチナの村々を包囲し、分断し、まるで抱きかかえるかのように。」

イスラエル管轄の車には黄色のナンバーがついている。イスラエルIDを持っているジョージの車も黄色のナンバーだ。それに対しパレスチナ自治区が管轄する車のナンバーは緑色。その車は自治区の外に出ることを許されていない。
私たちはいよいよ、エルサレムを経由してエルサレムとラマラの間にある最大のチェックポイントに近づいていく。突然視界に「壁」が現れる。あたかも道路の中央分離帯が巨大な塀になったかのようだ。道路は壁工事のせいか細かな土が泥と化し、ぬかるんででこぼこしている。この道を通ればどんなきれいな乗用車も泥まみれになるだろう。
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大量の車両が我先にチェックポイントに向かうため、あたりはクラクションの嵐。ジョージも負けずとクラクションを鳴らし、相手を罵倒している。みんな殺気立っている。歩行者用のチェックポイントもあり、徒歩で通過しようとする人々がひしめいている。特にラマラ側からエルサレム側への通過口では、多くの人が鉄柵で区切られた細い通路にひしめきあい、その光景は監獄の光景を喚起する。あるいは、ユダヤ人が体験した強制収容所の映像ともフラッシュバックする。柵がなければ、日本の満員電車や改札口とも通じるものがあるかも知れない。


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検問所では私ももちろんパスポートを提示させられるが、特に車を降りたりパスポートを調べたりする様子はない。イスラエル兵といっても、彼らは3年の兵役を淡々とこなしているフツーの若者にしか見えない。しかし皆が本物の機関銃を肩から下げている。

検問所の先は、いよいよラマッラーだ。検問所から10分もしないところにジョージ宅はある。集合住宅の6階部分で、私たちが滞在するのはそのすぐ下の5階部分だ。日本の感覚でいうならば、そこはハイグレードな高級マンションとでも言えばよいのか。床は全部大理石。リビングだけでかるく40m2はあるだろう、加えて広いキッチンには大きな冷蔵庫にフルーツや食材が全部そろえてある。それからベットルームが3つ、それぞれに美しく巨大なクローゼットとベットがあり、広いバスルームも2つある。東京でこのレベルのマンションを買ったら絶対億はするだろうな。。。次に上階のジョージ宅に案内される。そこはまさに豪邸。っていうか、一体ここはどこ? 個人宅にあることが信じられないものばかり。多種多様なお酒が並ぶカウンターバー、広いキッチンには私が3人くらい入れる巨大な冷蔵庫、リビングのTVは100インチを超えてる? ホームシアターってやつでしょうか。広いテラスからはエルサレムが一望でき、本格的なバベキュー用の「かまど」もある。以上がジョージのリビング部分。もちろんバスルームもある。さらに。ジョージのプライベートスペースは、書斎、ベットルーム、トレーニング・ルーム各種、ジャグジー、サウナ、バスルーム、があり、さらに娘さんのタミラさんのスペースが続く。恐れ入りました・・ジョージ・イブラヒム個人が有名な俳優・演出家として気づき上げた財産は、途方もないようだ。そりゃ、こんな人からみりゃ、日本のアートNPOなんて乞食みたいなもんでしょう。あは。しかもジョージ、別れた奥様にも同様の豪邸を購入、劇場にだってびっくりするような金額を寄付している。ノーブルな金持ちのお手本みたいな人だ。

それからアルカサバシアター&シネマテークに向かう。ジョージ宅から車で5分くらいだが、坂道を降りたり上がったりするので徒歩だと結構大変そうな道のりだ。劇場はカサバ=中心部にある。写真で観たとおりのホール2つやオフィスを一通り拝見。アルカサバとのコンタクトをとりはじめてからちょうど2年。ラマッラーの場所さえ知らなかった自分が、初めてジョージにメールを書いて返事をもらってから、互いにどれだけの発見と交流があったことだろう。そう思うと今自分が2年間の歳月を経てこの劇場にたどり着いたことに、改めて深い感慨を覚えた。
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それからジョージは、私たちを「ラマッラーで一番おいしい、一番有名な、最高のレストラン」に連れて行ってくれる。オープンテラスになっていて、豊富なメニューととても丁寧なサービス。どこかのリゾート地に来たとした思えない夢のようなレストランだ。アラファト議長だって来てるかも。でもそしたら上からミサイルが降ってくるか・・・などと考えながら、料理を注文する。最初はお決まりのひよこ豆のペーストなどパンにつけて食べる前菜やピクルス。しかしそれだけでかなりのボリューム。肉を愛する私はメインにもちろんケバブをオーダー。椿さんはシーフド、ジョージは鳩の丸焼き。やっぱり手づかみでむしゃむしゃ食べるあたり、どう見てもクマさんである。どれもこれも超美味しい。幸せの瞬間にぼうっとしてしまう。そしてお決まりのナギーラ(水煙管)。ラマッラーで美食とナギーラに恍惚としている我々を、一体誰が想像しただろう? 少なくともそこには普通の生活があり、日常は何が起ころうとたくましく続いている。
椿さんが「なんか聞こえるけど、何の音かな」と言った。私はよく聞こえなかった。ジョージは「なんでもないさ」と言った。
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豪邸に戻って、椿さんと二人でほけっとする。あのとてつもない壁とチェックポイントを通過してやってきたラマッラーで、王侯貴族のような生活。その極端な二つのリアリティが乖離したまま、同じ平面で考えることができない。思わず、椿さん昨日ポンピドゥーで買ったマシュー・バーニーのDVDを大画面で再生する。ラマッラーでリクライニング・チェアに寝そべりながらマシュー・バーニー。誰が想像するでしょう、こんな生活?
by smacks | 2004-10-04 15:21 | ■TIF05-パレスチナ
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