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日々の仕事のこと、観劇・鑑賞記録、出張報告など、国内外の舞台芸術を中心としたアートおよびアートマネジメント全般がテーマです。
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「まず、つくり手ありき」

長谷川孝治氏がにしすがも創造舎へやってきた。
長谷川さんはもちろん言わずと知れた弘前劇場を主宰する劇作家・演出家でいらっしゃるが、今日は2006年に開館予定の青森県立美術館「舞台芸術担当プロデューサー」という新しいお肩書きも携えての西巣鴨来訪。
何しろこの青森県立美術館、10年以上前から準備室が立ち上がり、地域を巻き込んだ準備が着々と進められている。また今をときめく建築家、青木淳氏の設計によるミュージアム・デザインにも大きな注目が集まっている。さらに作品の収集・保存・展示という従来の美術館(及び学芸員)の基本的役割に加え、舞台芸術専門のプロデューサーまで投入しクロスジャンルなアートセンターを目指す意気込みは、さらなる期待感を高めてくれるに十分だ。が、内実はやはりいろいろと大変そう・・・ともあれ、プレイベントとして県民参加型演劇公演や国際ダンス・コンペなど、骨も折れるが実りも多そうな企画の立ち上げに奔走していらっしゃるご様子。
作家であると同時に、劇団の主宰者(経営者)でもあり、またなみおか映画祭など地域のアートプロデューサーでもあり、そして高校や大学の教師でもある長谷川さんは、「とにかく人が足りない」と嘆いた。オールマイティな「つくり手」」が、現場の人材不足ゆえに地域とアートの「つなぎ手」、つまりプロデュースやキュレーションまで一手に引き受けざるを得ない状況は、依然日本の多くの地方都市に共通している。とにかく「つくり手」も、「つなぎ手」も足りない。その現状を何とか変革するためにここ10年来全国各地で展開されてきた数多くの試みを経てもなお、まだまだ足りない。なぜ地方にアーティストは少なく、残らず、育たないのか? (その理由は・・・哀しいかな、このブログを読んで下さっている皆さんには容易に想像がつくだろう。)

昨年、メセナ協議会のお手伝いでフランス・ナント市文化局長ジャン・ルイ・ボナン氏のアテンドなどをさせて頂いたとき、いろいろと素晴らしいお話を公私にわたって聞く機会があったが、中でも彼が力説していたナント市の戦略のひとつは「アーティストが住みたい・住めるまちづくりを徹底する、というもの。「まず、つくり手ありき」の戦略であるが、これは非常に賢い。つくる人に対して支援をすることで得られる計り知れないプラスのフィードバックを、市長をはじめ市のブレーン達は充分理解し、そして実践した。実にあっぱれな選択で、その結果は10年後「フランスで一番住みたい都市ナンバー1」「ヨーロッパで最も魅力的な街ナンバー1」という評価を一般誌(つまりアート関係者だけではなく)で獲得したのである。実際、ナント市にはここ数年で人口が増加しており、多くのアーティストや芸術関係者もパリやフランス、ヨーロッパから移住し、彼らが生み出すクリエーションやイノベーションが、さらに街の活性化に繋がるという好循環となっている。(詳しくはメセナノートに掲載させて頂いた拙稿をご覧下さい) 

ある日本の作家はこんなことを言った。「展覧会のプロジェクトが大きくなればなるほど、わけのわからん役人が次々出てきて、いらん名刺だけが山のように増える」と。その光景を思い浮かべると思わず笑ってしまうが、実際これは作家にとっても行政側にとってもとても不幸なことだと思う。「芸術文化による地域の活性化」という立派なスローガンを掲げても、3年に一度担当者が変わりすべてはゼロからやり直す―。こんな現在の日本の文化行政では、恐らく実りある文化政策の成果は期待できない。ノウハウも政策立案を支えるビジョンも蓄積されないからだ。
それを解決する唯一の方法は、やはり「適材適所」、つまり専門性を持った人材を文化行政の中枢に投入すること、に尽きるのではないか。国や地方自治体の人事システムを変えることなど恐らく国家の根幹に関わる大問題なのでそう簡単にはいかないことは百も承知しているが、それでも現場の担当者レベルには、専門知識・能力・実績のある人間を登用する透明なシステムを実現することはできないものだろうか? (と誰もが思っているのに何も変わらない現状が一番問題なのだろう・・・)ともあれ、文化芸術に興味関心のない人々がつくる文化政策に翻弄されることほど、むなしいことはない・・・。
by smacks | 2005-01-07 23:12 | ■アートマネジメント関連
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